【高橋典子】天職を捨てて、漁師になった女漁師

元県職員から漁師に、新しい人生の一歩踏み出そう！

初任地で出会った漁師の世界

岩手県職員の高橋典子さん。現在25歳。綾里の漁業に惚れ込んで、今年いっぱいで職員としての仕事を辞めます。そして2018年の春から水産会社に就職し、海と生きる生活を始めます。きっかけは初任地が大船渡だったこと。

「私はもともとこもるタイプで。休みの日も家でゆっくりすることが多かったんですよね。」

そんな彼女は、大船渡市の恋し浜で漁師と交流するイベントにたまたま参加します。最初は、自分がまだ見たことのない漁師の世界がどんなものか知りたい、という好奇心からでした。

しかしそこで「生産者である漁師と消費者がつながる」意義を漁師さんから聞きます。職場で地域振興課に所属していた高橋さんは、自分も職員として何かできるのではないかと思い、浜に通うようになります。一緒に県の交流イベントを開催するのに加え、土日になると漁師さんの船に乗せてもらって水揚げの手伝いをしたり。それを繰り返して浜の人と仲良くなり、漁師の世界に入り込んでいきました。

目に見えない世界で働く幸せ

それって目に見えない、形にないものじゃん、それで成り立ってる水産業って奇跡的な存在なんじゃないか

しかし高橋さんは県職員としての仕事も楽しいと言われます。

「事務作業とか行政の仕事は好きだし、そっちの方が天職だと思ってるんですよ、でもそれを捨てて、漁師になります。」

高橋さんはそう言って晴れやかに笑い、漁師の世界の魅力を教えてくれました。

「公務員も重要な仕事だと思う。でも漁師って漁法とか知識とか技術とか、伝統の中で受け継がれてくるもので。今生きている漁師さんたちは親とか、その前の世代の人たちから受け継いできたものに自分の知識と経験をさらに上乗せしてやっていく。それって目に見えない、形にないものじゃん、それで成り立ってる水産業って奇跡的な存在なんじゃないかと思う。そういう目に見えない世界も貴重だなと思っていて、日本の一次生産現場がそれで成り立っているっていうのが世の中じゃそこまで認識されてない。中身を見ると本当にすごい、大切な存在で。求められるものもそれこそ目に見えないものだからレベルが高い。大変な職業なんだけど、私にとってはすごいありがたいと思う。幸せ。楽しい。」

「外」の世界から来て、女性漁師になる

漁師の世界とは何の縁もなかった女性が、漁師になる。そのために、高橋さんは覚悟を決めてこの世界に潜り込みました。

「私が浜に興味を持ってここで仕事をしたら幸せだろうなと思って、女の人は漁師になれないですかって漁師さんに聞いたの、聞いたら女は漁師になれねえぞって言われて、まあ当たり前のことなんだけど逆にそれがなんでってなって。

もちろん力とかじゃ負けるけど、船に乗って女の人でもできる作業はあると思うし、ましては浜でお母さんたちも船に乗って仕事をするから、ただそれが外から来た人間というだけで難しいて言われて諦めるのは何か話がはやすぎるなあと思って。だからたくさん浜に通った。

ただいざ仕事しようとなると受け入れてくれる人がすぐ見つかるかと言うとそう簡単じゃなくて。漁師さんは手伝いにおいでおいでと言うんだけど実際に雇うかは別の話。まして今公務員だから、わざわざ県職員を辞めてこんなとこに来るのかって全員に言われた。向こうもすごい責任感じちゃうんだと思う。

だからもう県職員をやめるって決定事項にして、行くあてもなくとりあえず県庁を辞めるって決めて、今の社長さんに相談した。そしたら、女の子でも浜が好きで漁師として綾里に住みたいって思う子がいるんだったら受け入れたいよって言ってくれたから、即座にありがとうございますって言って(笑)

水産業は、女の人をそもそも受け入れにくい世界だけど1回入ったら、頑張れば評価されるかもしれない、だから4月からもっと頑張ればいい。」