【新田圭二】越喜来の漁場を後世に残したい

8月下旬、ホタテの玉つけ作業と管理を終えて帰ってきた新田さんに取材を行った。

越喜来漁業協同組合理事を務める新田圭二さん

　　高校卒業後すぐに実家を出て神奈川へ行き、工業の専門学校に進学後。約20年間神奈川で船を売る営業をしていた。その後、父の体調不良を理由に地元にUターンし、父の仕事を引き継ぐ。引き継ぐことを考えていなかった新田さんは船の結び方一つもわからなかった。

その当時経験のない状態で大変ではなかったか聞いたところ、漁師になる人はほとんどが小さい頃から学んでいるから大変だったと言っていた。だからまずは行事に参加することから始めた。なぜなら地元であるし、漁師として仕事をする上で大切なことは人との繋がりだと思ったからだ。営業時代のことはほとんど生かせなかったけど唯一、人と話す能力だけは生かせたと語っていた。

～新田さんの「三つの顔」～

組合理事としての顔

越喜来の漁場を守る砦

　　漁業組合の理事でもある新田さんは、越喜来で漁業を営む漁師を束ねる役割も担っている。そんな新田さんに漁師の世界で絶対にやってはいけないことを聞いたところ、「密漁」と即答された。一個単位で高価なウニやアワビなどは今なお密漁被害は大きいらしい。そんな密漁に関しても組合員である新田さんは警察などと連携して取り組んでいる。

　密漁は主に密漁を目的にした人の採取や、観光客が知らずにとってしまうことだと思っていたが、意外にも同業者間でも多いようだ。漁場ではウニやアワビ、マグロなどには一個体ずつに採ることが禁止される制限事項(重さや大きさ)、採ってはいけない期間があるそうで、それを無視して漁業者が採ってしまうこともあるようだ。

　そのため漁港ではチェックを行い、罰金を科したり操業7回停止などの厳しい措置をとっている。

船は漁師の魂

　　震災後は大半の船が流され壊滅的な被害を受けた。8人いた組合の理事は数人亡くなってしまったという。組合としてはまず、漁師にとって一番大事である船の確保から始めた。大きな船は九州の熊本で調達し、小船50隻は地元で調達した。船は5年間組合が保有することになり、それを過ぎると個人に渡るという。だから7年経った現在はほとんどが個人に渡るようになった。

　　すべてがなくなった震災後すぐは、個人で漁業を営むことは厳しいため、1年目はわかめの養殖を共同でやり、二年目はあわびの養殖を共同で行ったという。そのため新田さんは震災により失ったものは多かったが同業者の結束が必要になったことから交流が増えたと話されていた。

　　震災後に組合として始めた取り組みについて聞いたところ、漁場の区画整理をしたそうだ。震災前は好きなところを使用することができていたことから量が採れるものの質の良いものが採れなかったらしいが、区画を設定し抽選で場所を決めることで、質の良い貝類の養殖が可能になったという。

　　越喜来ではないが、実際に陸前高田市の漁港でも区画整理がされていて一ブロックごとに均一に幅が設定されていた。↓

陸前高田市の漁港にあるカキのいかだ。越喜来ではないが、実際に陸前高田市の漁港でも区画整理がされていて一ブロックごとに均一に幅が設定されていた。

若者よ、力をわけてくれ!!

　　今後の取り組みについて新田さんは若者にきてもらうことを目的とした取り組みをしたいと言っていた。震災前からの問題であるが若者離れが深刻だという。現在も北里大学の学生などの漁場の見学を受け入れる活動など、県と連携して地元の方々と他の地方の方のお見合いのイベントをやっているようだ。

　　新田さんはゆくゆくは若者が漁場を維持できるように、そのための取り組みに力を入れていきたいと話していた。

漁師としての顔

ホタテを愛する男

　　新田さんは組合の理事の傍、父の代からのホタテ養殖を行う漁師でもある。

ホタテを効率よく獲るためには日頃の管理と掃除が重要という。

　　2011年3月11日東日本大地震の時も新田さんはホタテの管理と錨の代用となる重りを海に入れていた。たった1人で港にいた新田さんは、あとほんの少しずれていたら重さ2トンもあるホッパーの下敷きになるところだった。命こそ助かったものの、津波は漁師の魂ともいえる船を沢山海に引きずり込んで行った。新田さんも3隻ある船のうち2隻が流されて無くし、1隻はおよそ1キロ先の海底で発見された。

　　新田さんが主に生産するものはホタテだ。朝5時の出荷に間に合うように、深夜1時から2時ごろに出航して水揚げをする。日頃ホタテの管理と掃除をこまめに行っているのは、水揚げする際の効率を良くする為と上質なホタテを作るためだ。上質なホタテを効率よく獲るためにもこういった管理ができるような後継者となる若者が欲しいと言っていた。

　　取材を行った8月下旬は台風の影響で高波が続いていた。毎月17日から25日まで漁ができる開港期間となっているが、お盆あたりは高波の影響で獲れていないという。ここ越喜来漁業は岩手県ナンバーワンのホタテ生産量を誇っていたが、2011年震災後、生産者は半分以下の28人ほどに落ちた。

ホタテ養殖の図

おじいちゃんとしての顔

海を愛する男の素顔

　　新田さんは、3人の娘と5人の孫を持つおじいちゃんでもある。今は優しい奥さんと二人暮らしであり、ときどき来る孫の話をするときはとても楽しいそうだった。漁師であり組合理事でもある新田さんは、今も大変なことばかりと言っていた。そのため休みの日に孫に会いに行くことが最大の息抜きになっているのだろう。

漁師にとって船は魂であるように、漁業は人材が宝だ。

　多くの若者が越喜来の漁業に携わることこそが三陸の発展につながる。新田さんはそれを願っているのだ。新田さんが組合の理事という責任ある立場に何年も身を置けるのは、漁師の顔を持つが故の現場の理解と家族の支えがあるからだろう。きっと３つの顔を持っているからこそ、人望が生まれ70歳を超えても革新的な取り組みを出来ている。

　　越喜来の今後のためにも、多くの人にこの記事が届くことを切に願う。

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編集者

中丸　美奈／竹村　建蔵

中丸美奈

竹村建蔵