熊谷昌征さん、25歳。綾里の海と共に育ち、水産高校を卒業したのち、漁師として働かれています。実家のワカメ養殖を手伝いながら、5月から1月までは定置網漁に従事します。現在はその合間に、地元の水産会社から貸してもらった船に単身乗り込み、刺し網漁やたこかご漁を行っています。
楽しいからずっとやる。大好きな海を仕事へ。
漁は楽しい。楽しいから疲れるよ、加減が分かんないんだよ。楽しいからずっとやるんだよ
熊谷さんは幼少時代から海が大好きだったそう。
「小学校くらいからもり持って、魚つついたり、あさり取って遊んでた。海にはほとんど毎日行ってた。外で遊びたいタイプで、ゲームしてる人とかもいたけど、合わないから一人で釣り行ってたりとかしてた。それの延長だよね今(笑)
漁は楽しい。楽しいから疲れるよ、加減が分かんないんだよ。楽しいからずっとやるんだよ(笑)」
そう言って顔を綻ばせます。
漁の世界の深さ。経験と想像力がものを言う
もう漁師やって7年になるけど、まだまだ分からないことだらけだ。
熊谷さんは定置網漁船に乗りながら、先輩の背中を追って一つ一つ自分のものにしてきました。
「見て学ぶのもあるし、定置乗ってると、30人くらいいるの。だから何か1つわかんないことあったらみんなに聞くの。そうすると、みんな同じやり方じゃなくて正解はないのね。この人はこういう理屈でこういう縛り方すんだなぁとか。それで自分に合ったのとか、自分が正しいなと思ったのを使ってる。
あとこの人仕事を見習いたいなぁって思う師匠的な人を見つけて、その人の仕事を見て覚えていってる。それが仕事を覚える近道と思ってる。」
それでも熊谷さんは取材中次のような言葉を繰り返していました。
「もう漁師やって7年になるけど、まだまだ分からないことだらけだ。」
例えば彼が一人でしているさし網漁。魚にも獣道のようなものがあり、刺し網漁はその魚の通り道にカーテンのような網をしかけて取ります。さす網の目は魚によって様々。ただ網の目を小さくすれば、小さな魚も大きな魚も取れるわけではありません。その魚にぴったりの魚のサイズである必要があるのです。
加えて実際に網を落とすときは、魚群探知機で探した魚の群れに届くまで、網が潮でどのように流されるかも計算しなければなりません。この潮を読むのが至難の業。時には海水面から見えている潮の流れと、魚のいる水中の潮の流れが全く逆の場合だってあります。彼の踏み入れた漁の世界は想像力と経験が問われる、深い、深い世界なのです。
下は熊谷さん 実際に魚の血抜きをしている様子。
これからは自分たちの時代
地元の人はそういうのをまだ気づいてないし、あまり昔のやり方を変えようとしない。でも時代はどんどん変わっていくから。
熊谷さんと、同級生の佐々木晶生さんとの食事にご一緒させてもらいました。佐々木さんのいさだ漁の話など、車の中でも漁の話が飛び交います。綾里の漁業についても、こうしたらいい、ここは改善した方がいい、と話し合われていました。
「漁師が少なくなっているというのは俺らにとってはチャンスかもしれない。あと何十年かしたら自分たちの時代になる」
こう言って二人はニヤリと笑われました。熊谷さんが若手からベテランに移った数十年後、綾里でどのような漁を生み出しているか、楽しみに感じました。